2015年 01月 21日
▼グラディ主催の上映会 先週の土曜日(1月17日)、ドキュメンタリーフィルム「大阪のエイサー 〜思いの交わる場所〜」の上映会をおこなった。これは、寺田吉孝さん(国立民族学博物館 先端人類科学研究部 教授)がつくられたもので、映像人類学という、研究対象を映像で記録する方法を用いた研究実践ともなっている。 主催は、「多文化創発net. 〜グラディ〜」。これまで、GRADiというスペースを拠点にしておこなってきた活動を、スペースを閉めたことをきっかけに名前を変え、活動ネットワークとして再スタート。その第一弾の会となった。 また、人間文化研究機構連携研究「映像による芸能の民族誌の人間文化資源的活用」プロジェクトが共催に。もともと、アカデミックなものと活動をつなげていきながら、多様性が肯定されていく社会づくりを目指して始まったグラディらしい会となった。 ▼LGBTであることを隠さなくていい場 グラディが主催といっても、グラディに関わるメンバーは、レインボーアライアンス沖縄&ピンクドット沖縄のメンバーと重なる(ピンクドットの実行委員会はレインボーアライアンス沖縄の中につくられている形<ややこしくてすみません)。 よって、今回の上映会もピンクドット沖縄の関係者が大部分。ピンクドット沖縄は、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーのメンバーもいるが、アライズ(LGBTではないがLGBTが生きやすい社会づくりのために連帯する人)も多い。この関係性の中では、自分がLGBTであることを隠さなくていいという感覚でいられる。 このように書くと、この上映会の「大阪のエイサー」とLGBTやアライズであることは関係ないんじゃない?と思う人も多いだろう。しかし、実際には、そういう場で、他のテーマのものを観たり、話し合ったりしても、やはりLGBTであることを隠さなくていいという場とそうではない場とでは大きく異なることを感じる。 ▼コメントへの影響 その違いは、言語化しづらいところが多いのだが、わかりやすいことを一つあげると、コメントをするときに自分の経験に引きつけて語ることができるということだ。特に、今回上映したフィルムは、沖縄から大阪に移り住んだ人たちやその子どもたちが、エイサーを踊ることをテーマにしていたので、自ずとマイノリティ性の問題や、そのことをめぐる意識の変化について語られていたので、それについてコメントしようとすると、LGBTやともに活動する人たちは、そのことと引きつけて考えざるを得ない。 しかし、もしLGBTであることが語りづらい場だと、そのことから離れた内容で語りがちだ。また、そこで自分がLGBTであると言わなくても、そうであることを知っている仲間たちは、その人の背景に思いを馳せながら聞くことができる。その共有があるかないかでは、同じコメントも違う意味を持つことだろう。 もちろん、マイノリティ性がテーマではない集まりでも同じだ。老後について話をするとき、パートナーが同性であることは異性であるときと大きく異なる(結婚制度がなく、社会的な認知も低いがゆえに)。医療においては、トランスジェンダーであることが重い意味を持つことも多いだろう。恋愛関係だけでなく、家族関係、友人関係、学生生活、職場の問題。LGBTである人とそうではない人は違う経験をしているのだ(LGBT自身それを意識化しない人が多いが)。 ▼ワークショップで 以前、非暴力コミュニケーションワークショップでも、LGBTであることを隠さなくていいと感じられる場ならではのやりとりがあった。そのワークショップでは、ひとりひとり、自分が苛立ちを感じる場面をあげて、その理由をさぐっていくということをしたのだが、あるゲイ男性は、「『仲間』と思われる男性」のマナーをめぐる話をした。 その苛立ちの理由をあれこれ探っていくと、彼の、ゲイとしてのコミュニティ意識、仲間意識が大きな意味を持っていることが出てきた。もし、彼がゲイとしての自分について語らず、一般的なマナーの話として語っていたら、その重要なところに話は至らなかっただろう。 ハンナ・アーレントは、「世界からあなたが退くことは世界を見る見方が失われること」と言った。おそらく自分の経験にとって非常に重要な意味をもつ、性別をめぐること、誰をすきになるか、誰と最も親密に生きているか/きたか、ということを隠ことは、その経験にともなう世界の見方を封印することなのだろう。 それは(そうしなくてはいけない環境は)、その人が生きるグループ、コミュニティ、社会、グループににとっても、その人自身にとっても、残念なことのような気がする。そのまわりの環境も自分もより豊かにする機会が失われているということなのだから。
by hideki_sunagawa
| 2015-01-21 14:06
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