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2012年 04月 13日

引き継ぎながら

東京滞在記を書いた後、力つきたように(?)ブログを更新するエネルギーも起きず、またブルー期間に入りつつあるのを感じていた。気分はどんどん低下し、昨日は、鬱々とした気分だったので、早く寝よう…と思ってベッドへ。

そのときなぜか、普段はしないのだが、書庫の扉を開けて「寝る前に何か英語の本を読もう…でも簡単なものがいいな」と一冊の本を手にした(ちなみに…「書庫」と読んではいるが、本棚を並べて本を詰めたただのクローゼット<苦笑)。


その本は、'The Gifts of the Body'(by Rebecca Brown)。だいぶ前に、何かでチラッと文章を読んで、とても読みやすいシンプルな英語を気に入って買った短編小説集。どういうものだったか思い出さないまま読み進めた。


最初は、流し読みしていたのだが、途中で「ん?これは?もしかして…」と思い、また最初に戻ってじっくり読み始めた。こういうストーリーだった。

ーーー

「私」は、毎週の火曜日と木曜日にRickの家を訪問している。行く前にいつも、「何か必要なものある?」と聞くけれど、頼まれることは一度もなかった。ある日、朝食を食べ損ねた自分のために、ある店でシナモンロールとカフェオレを買い、特に訊くこともなくRickのぶんも買った。

そのシナモンロールを見たRickはとても喜んだ。そこのシナモンロールは彼の大のお気に入りで、日曜日の朝に、焼き上がる早い時間に行き、一番おいしい、オーブンの鉄板の真ん中のシナモンロールを買っていたという。それはシナモンシュガーが絶妙にとけて、中がふわふわなのだ。

それからというもの、「いつものやつ」と言って、それを買って行くようになった。しかしある日、Rickは「今日はいらないよ」と電話口で明るく言った。

けれど、家に着くと、彼はリビングに布団を敷いて具合い悪そうに寝ていた。「主治医を呼ぶ?」と聞いたら、すでに、UCSのMargaretに連絡をしたという。「電話したときは元気だったのに、急にこうなって…」。

彼は背中にびっしょり汗をかきながらも「寒い」と言って、毛布を握りしめている。その手の震えはだんだん大きくなっていく。「毛布をもう一枚持って来ようか?」と尋ねると、「行かないで!」と。「私」は、毛布にもぐりこみ、背中に体をくっつけ、手を彼が痛がっているお腹に乗せて彼を温めた。彼はその手を強く握りしめた。


Margaretとともに車で移動するRickに、「戻って来るときのためにきれいにしておくからね」と「私」。彼は笑みを浮かべようとした。「後で連絡するから!」。彼は、何も言葉を発する事もできないまま去っていった。

「私」は、部屋をきれいにしようと台所に一旦入るが、あることに気づき、そこは最後にすることに。そして全てを忘れ、彼がすぐに戻って来るかのように、他の部屋やシャワーを掃除する。そして、台所に戻った。

そこには、Rickのお気に入りのコーヒーカップが二つ、彼自身のものとパートナーだったBarryのものが。コーヒーもすぐに入れられるようにしてあった。

そして、デザート皿に、二人分のあのシナモンロールが。絶妙な解け具合のシナモンロール。「私」は、思いを馳せる。彼にとってとても長いはずの道のりを歩いた彼のことを。天板の真ん中の美味しいシナモンロールを買うために、いったいどんな早くに家を出たのだろう…。


Rickは、Barryと一緒に、リビングに引っ張り出して来た布団で、日曜日の朝食を「bed-and-breakfast」スタイルのようにして食べていたことが恋しいと、いつか語っていた。しかし、Barryが亡くなってからは、日曜日の朝には、あのシナモンロールの店まででかけるようにしていた。彼の体調が許すまでは。


「私」は目を閉じ机に突っ伏し、RickやBarryに思いを馳せた。しかし、しばらくして、目を開けて、彼が自分のために用意してくれたものを食べた。

ーーー

「ああ、これは、HIVの治療が今ほど進んでいなかった時代のゲイの物語なんだ」と僕はすぐにわかった(買うときもそれと知って買ったのだろうけど、すっかり忘れていた)。

実際に、このストーリーを読み終わって、著者のプロフィールと紹介文を見ると、ホームケアワーカーとしてAIDS患者の支援をしていたと書かれてあった。出版は、1994年。HIVの治療の方法が革新的に発展する直前だ。


僕は、1990年からHIVの活動にかかわっているので、その頃までのこの病気の状況を良く知っている。そして、実際に闘っていた人たちのことを思い出した。Rickと何人かの人が重なった。

そして、HIVだけでなく、他の病気と闘いながらも亡くなっていった僕の大切な人たちのことも思い出した。僕はその人たちから、何かを託されたり、引き継いだりしている…そのことを思い出して、少し自分を奮い立たせることができた。完全に、というわけにはいかないけど。

まだまだ僕にはできること、やらなければらならいことがあるはず…
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by hideki_sunagawa | 2012-04-13 01:25 | Diary


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